比較・選び方 · 内蔵SSD(NANDの種類とキャッシュ構成)

TLCとQLC、DRAM搭載とDRAMレス(HMB)の違い:SLCキャッシュが切れた後の書き込み速度をデータシートで読む

同じ「連続書き込み最大◯MB/s」と書かれたSSDでも、数十GB以上を続けて書いたときの速度は製品ごとに桁が違います。SamsungはFAQで、同社SSDのIntelligent Turbo Writeが「内部のSLCバッファリングによって書き込み速度を上げる」技術で、TLCやQLCのような多ビットセルに直接書かずSLCバッファ領域へ書き込み、読み書きがない間に多ビットセルへ移動させる、と説明しています。つまりカタログの最大値はこのバッファが効いている間の数字です。SATA接続の2製品を比べると差がはっきりします。Samsungのデータシートによれば、TLCの870 EVOはキャッシュ後の連続書き込みが1TB以上で530MB/s(250GB/500GBは300MB/s)ですが、QLCの870 QVOはキャッシュ後が1TBで80MB/s、2TB以上でも160MB/sです。速度だけでなくTBWと保証年数も別で、870 EVOの1TBは600TB・5年、870 QVOの1TBは360TB・3年です。この記事は、NANDの種類とキャッシュ構成(DRAM搭載かHMBか)が何を決めるのかを、公開されているデータシートの行と脚注に結び付けて説明します。

公開 · 更新 · FaultNote 編集方針

TLCとQLC、DRAM搭載とDRAMレス(HMB)の違い:SLCキャッシュが切れた後の書き込み速度をデータシートで読むの流れ:1. TLCとQLCは1セルあたりのビット数の違い。表記のゆれに注意する、2. カタログの最大速度はSLCキャッシュが効いている間の数字、3. DRAM搭載とDRAMレス(HMB)は別の軸。NANDの種類とは分けて読む、4. 買う前に見る行と、用途別の決め方
この記事の手順・確認項目の一覧。実際のアプリ画面ではありません。

この記事が役立つ人・作業前の準備

  • 動画や画像、ゲームのインストールなど数十GB単位の書き込みが多く、安い大容量SSDで足りるか判断したい人
  • 「DRAMレス」「HMB対応」と書かれたSSDを見て、体感差が出るのか分からない人
  • SSDのデータシートのどの行と脚注を読めば、買った後の速度低下を予測できるか知りたい人

用意するもの

  • 候補製品のメーカー公式データシート(PDF)。製品ページの要約ではなく、脚注まで載っている版
  • 自分の書き込みの単位(1回に何GB書くか、その頻度)と、保存先が起動ドライブかデータ用かの区別
  • 接続先の確認(SATAかNVMeか、NVMeならスロットの世代)とOSの版。HMBはWindowsの標準ドライバーの対応条件に関わります

1. TLCとQLCは1セルあたりのビット数の違い。表記のゆれに注意する

NANDフラッシュは1つのメモリーセルに何ビット記録するかで呼び名が変わります。KIOXIAのBiCS FLASHの解説資料は、同社のTLCを「3-bit-per-cell」、QLCを「4-bit-per-cell, quadruple-level-cell」と明記し、2017年6月に4bit/cell技術(QLC BiCS FLASH)を最初に導入した、2018年7月に単一チップで1.33テラビットを達成した、と記録しています。1セルに詰め込むビット数が増えるほど同じ面積で容量を増やせますが、1セルが区別しなければならない電圧の段階も増えます。

ここで仕様表を読むときの落とし穴があります。Samsungは自社のNANDを「V-NAND 3bit MLC」「4bit MLC V-NAND」と表記します。870 EVOのデータシートのNAND Flash Memory欄は「Samsung V-NAND 3bit MLC」、870 QVOは「Samsung 4bit MLC V-NAND」です。文字列としては両方に「MLC」が入りますが、前者が一般にいうTLC、後者がQLCです。製品名の末尾(EVO/QVO)だけでなく、この行のビット数を見てください。

ビット数の違いは、速度だけでなく書き込み耐性と保証にも表れます。同じSATA接続・同じMKXコントローラーの2製品で、Samsungが公表しているTBW(総書き込みバイト数)と保証期間は下の表のとおりです。保証は年数とTBWの早く到達した方で終わる点は、当サイトのSSDの耐久性(TBW)の記事で扱っています。

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1. TLCとQLCは1セルあたりのビット数の違い。表記のゆれに注意する
項目870 EVO(TLC)870 QVO(QLC)
データシートのNAND表記Samsung V-NAND 3bit MLCSamsung 4bit MLC V-NAND
一般的な呼び方TLC(KIOXIAの定義で3-bit-per-cell)QLC(KIOXIAの定義で4-bit-per-cell)
TBW(1TB/2TB)600TB/1,200TB360TB/720TB
保証期間5年(TBWと年数の早い方)3年(TBWと年数の早い方)
ラインアップの容量250GB〜4TB1TB〜8TB

2. カタログの最大速度はSLCキャッシュが効いている間の数字

SamsungのSSD FAQは、Intelligent Turbo Writeについて「内部のSLCバッファリングによって書き込み速度を上げることで性能を改善する技術」であり、「TLCやQLCのような多ビットセルに直接書き込むのではなくSLCバッファ領域へ書き込む」「SSDが読み書きしていないときにデータが多ビットセルへ移動し、SLCバッファ領域の空きが戻る」と説明しています。1セルに1ビットだけ書けば電圧の段階を細かく区別する必要がないため速く書けますが、その領域は有限で、連続して書き続ければ尽きます。

データシートの脚注はこの前提を明示しています。870 EVOの脚注3は「連続書き込み性能はIntelligent TurboWrite技術に基づく測定値」としたうえで、「Intelligent TurboWrite領域の後の連続性能は300MB/s(250GB/500GB)または530MB/s(1TB/2TB/4TB)」と書いています。870 QVOの脚注3は同じ構文で「Intelligent TurboWriteの後の性能は80MB/s(1TB)、160MB/s(2/4/8TB)」です。どちらもカタログ表の連続書き込みは530MB/sで、SATAの上限に近い同じ数字です。差はキャッシュが尽きた後にしか現れません。

870 QVOの脚注4・5は、ランダム性能についてもキャッシュ後の値を出しています。QD1ではキャッシュ後の読み出しが5.0K IOPS、書き込みが22K IOPS(1TB)/34K IOPS(2/4/8TB)です。カタログ表のQD1ランダム書き込みは35,000 IOPSなので、キャッシュが尽きた1TBモデルでは約3分の2に下がる計算になります。なお、これらはSamsungが自社の試験環境(870 EVOは連続がCrystalDiskMark 5.0.2、ランダムがIOmeter 1.1.0)で測った公称値で、当サイトでは実機を測定していません。

容量が小さいほど不利になる点も脚注から読み取れます。870 EVOは1TB以上ならキャッシュ後も530MB/sを保ちますが、250GB/500GBでは300MB/sに落ちます。870 QVOは1TBが80MB/s、2TB以上が160MB/sです。「安いから小容量を買う」「安いからQLCの大容量を買う」のどちらも、長い書き込みでは別の形で効いてきます。

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2. カタログの最大速度はSLCキャッシュが効いている間の数字
測定条件(Samsungのデータシート)870 EVO(TLC)870 QVO(QLC)
カタログ表の連続書き込み(キャッシュ有効)530MB/s(全容量)530MB/s(全容量)
キャッシュ後の連続書き込み(1TB)530MB/s80MB/s
キャッシュ後の連続書き込み(2TB以上)530MB/s160MB/s
キャッシュ後の連続書き込み(250GB/500GB)300MB/s該当なし(1TBから)
キャッシュ後のQD1ランダム書き込みデータシートに記載なし22K IOPS(1TB)/34K IOPS(2/4/8TB)
速度が戻る条件SamsungのFAQは、読み書きがない間にSLCバッファから多ビットセルへ移動すると説明同左(アイドル時間が必要)

3. DRAM搭載とDRAMレス(HMB)は別の軸。NANDの種類とは分けて読む

「DRAMレス」はNANDの種類とは別の話です。SSDのコントローラーは、どの論理アドレスがどの物理ページにあるかの対応表を持ちます。この作業領域を基板上のDRAMに置くのがDRAM搭載型、ホスト(PC)のメインメモリーの一部を借りるのがHMB(Host Memory Buffer)です。Microsoftの開発者向けドキュメントはHMB機能を「ホストがホストメモリーの一部をコントローラー専用に割り当てるための仕組み」と定義しています。

同じSamsungのNVMe製品でも構成が分かれます。990 PROのデータシートは「DRAM Cache Memory」欄に1TB=1GB、2TB=2GB、4TB=4GBのLPDDR4を記載します。一方、990 EVO Plusのデータシートは同じ欄が「HMB(Host Memory Buffer)」で、基板上のDRAMはありません。どちらもNANDはV-NAND TLCで、NANDの種類ではなくキャッシュ構成が違う例です。DRAMレスを「必ず安物」と読むのは正確ではありません。

HMBを使うにはホスト側の対応が要ります。MicrosoftのNVMe機能対応表は、Windows標準のStorNVMeドライバー(Windows 10 バージョン1903以降での対応を示す表)でHost Memory Bufferが「Yes」であることを示しています。裏を返せば、ホストのメモリーとドライバーが関わる分、古いOSや特殊な環境ではDRAM搭載型と同じ前提が置けません。また、HMBはホストのRAMを消費します。搭載メモリーが少ないPCで複数のドライブを使う構成では、この点も見ておく価値があります。

なお、990 EVO Plusのデータシートの脚注4は「連続およびランダムの書き込み性能はIntelligent TurboWriteを有効にした状態で測定した。Intelligent TurboWriteは特定のデータ転送サイズの範囲内でのみ動作する」と書いていますが、その範囲の大きさも、キャッシュ後の速度も数値では公表していません。SATAの870シリーズのように「キャッシュ後◯MB/s」まで書いているデータシートは、実際には多くありません。ここが、NVMe SSDを買う前に速度低下を予測しづらい一番の理由です。

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3. DRAM搭載とDRAMレス(HMB)は別の軸。NANDの種類とは分けて読む
項目990 PRO(DRAM搭載)990 EVO Plus(HMB)
データシートのキャッシュ欄DRAM Cache Memory:1GB/2GB/4GB LPDDR4(容量別)Cache Memory:HMB(Host Memory Buffer)
NANDSamsung V-NAND TLCSamsung V-NAND TLC
インターフェイスPCIe 4.0 x4 NVMe 2.0PCIe 4.0 x4 / 5.0 x2、NVMe 2.0
公称の連続書き込み(上限)6,900MB/s6,300MB/s
キャッシュ後の速度データシートに数値の記載なし(脚注はTurboWrite有効時の測定と明記)同じく数値の記載なし
ホスト側の条件ホストのメモリーは使わないホストのRAMを借りる。Windows標準ドライバーはHost Memory Bufferに対応

4. 買う前に見る行と、用途別の決め方

データシートで確認する行は多くありません。NAND Flash Memory(3bitか4bitか)、DRAM Cache MemoryまたはCache Memory(LPDDR4の容量かHMBか)、連続書き込みの脚注(キャッシュ有効時の測定かどうか、キャッシュ後の数値があるか)、TBWと保証期間の4か所です。製品ページの見出しだけでは、この4つのうち脚注とキャッシュ欄がまず載っていません。PDFのデータシートを開いてください。

用途の側から決めるなら、1回に書き込む量が判断軸になります。書き込みが数GB単位で終わり、その後しばらく放置される使い方(OSとアプリ、文書、ブラウザー)なら、キャッシュ後の速度はほとんど表に出ません。一方、数十GBから数百GBを一気に書く使い方(動画の書き出し、ゲームのインストールや大容量の移行、バックアップの初回作成)では、キャッシュ後の速度がそのまま所要時間になります。870 QVOの1TBの80MB/sで100GBを書けば、単純計算で約21分かかります。530MB/sなら約3分です。

空き容量の管理も効きます。SamsungのFAQは、Over Provisioning機能について「未割り当て領域があるSSDは性能と寿命が向上する」と説明し、Magicianソフトウェアから未割り当て領域の大きさを設定できると案内しています。ドライブを満杯近くまで使わないこと自体が、書き込みに余裕を残す方向に働きます。

なお、すでに持っているSSDで「大きなコピーの途中から遅くなる」場合は、キャッシュ切れのほかに温度による速度制限もあり得ます。切り分けの手順は当サイトのNVMe SSDのコピーが遅くなる記事にまとめています。購入前の予測は本記事、購入後の切り分けはそちらという分担です。

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4. 買う前に見る行と、用途別の決め方
使い方効いてくる仕様確認・選び方
OS・アプリ・文書中心(1回の書き込みが数GB以下)キャッシュ後の速度はほぼ表面化しない容量と保証(TBW)を優先。DRAMレス(HMB)でも条件は揃う
動画の書き出し・大容量ゲームの導入(1回に数十〜数百GB)キャッシュ後の連続書き込みがそのまま所要時間キャッシュ後の数値を公表しているデータシートを探す。同シリーズなら大きい容量の方が有利(870 QVOは1TB 80MB/s、2TB以上160MB/s)
書き込みっぱなしの保管用(一度書いて読み出し中心)書き込み耐性と保証年数TBWと保証年数を比較(870 EVO 1TBは600TB・5年、870 QVOは360TB・3年)
メモリー搭載量が少ないPC・複数ドライブHMBはホストのRAMを借りるCache Memory欄がHMBか基板上のDRAMかを確認。Windows標準ドライバーの対応表も見る
容量が小さいモデルを検討中小容量ほどキャッシュ後の速度が落ちる例がある870 EVOは250GB/500GBが300MB/s、1TB以上が530MB/s。脚注の容量別の記載を読む
満杯近くまで使う予定空き領域の余裕SamsungのFAQは未割り当て領域があると性能と寿命が向上すると説明。容量に余裕を持たせる

注意点・利用条件

  • この記事の速度・TBW・保証はすべてメーカーが公表した値です。Samsungのデータシートは、870 EVOの連続性能をCrystalDiskMark 5.0.2、ランダム性能をIOmeter 1.1.0で、990 EVO PlusをRyzen 9 7950X搭載機で測ったと明記しており、測定環境が違えば数字も変わります。当サイトでは実機を測定していません。
  • 「キャッシュ後◯MB/s」を公表しているデータシートは限られます。ここで示した870 EVO/870 QVOの値は同シリーズの公称値であり、他社・他モデルのQLC製品やNVMe製品にそのまま当てはめられません。公表がない製品では、キャッシュ後の速度は購入前には分からないものとして扱ってください。
  • この記事は価格・在庫・ランキングを扱いません。KIOXIAのインフォグラフィックは記載されている最新の出来事が2021年3月で、世代や層数は現在の製品と異なります(引用したのは1セルあたりのビット数の定義です)。仕様は各メーカーが2026年9月19日に公開していた資料に基づきます。

よくある質問

QLCのSSDは買わない方がよいのでしょうか?

使い方によります。Samsungのデータシートでは、870 QVO(QLC)はカタログ表の連続書き込みが870 EVO(TLC)と同じ530MB/sで、差が出るのはSLCキャッシュが尽きた後です。その値は1TBで80MB/s、2TB以上で160MB/sで、870 EVOの530MB/s(1TB以上)とは大きく開きます。1回の書き込みが数GBで終わる使い方なら表面化しにくく、数十GB以上を一度に書く使い方では所要時間に直結します。あわせてTBWと保証年数も違う(1TBで360TB・3年対600TB・5年)ので、書き込み量が多い用途ほど差が積み重なります。

DRAMレス(HMB)のSSDは体感で遅くなりますか?

DRAMレスかどうかはNANDの種類とは別の軸で、「DRAMレス=低速」と一対一で決まるわけではありません。SamsungのNVMe製品では、990 PROがDRAM Cache Memory(容量別に1〜4GBのLPDDR4)、990 EVO PlusがHMBで、NANDはどちらもV-NAND TLCです。HMBはホストのメモリーを借りる仕組みなので、ホスト側の対応が前提になります。MicrosoftのNVMe機能対応表は、Windows標準のStorNVMeドライバー(Windows 10 バージョン1903以降の対応を示す表)でHost Memory Bufferが対応済みであることを示しています。搭載メモリーが少ないPCや、標準ドライバーが使えない環境では前提が変わる点だけ確認してください。

キャッシュが切れた後の速度は、どこを見れば分かりますか?

メーカーのデータシートPDFの、連続書き込みに付いた脚注です。Samsungの870 EVOと870 QVOは、脚注に「Intelligent TurboWrite領域の後」の数値を明記しています。一方、990 PROや990 EVO Plusの脚注は「TurboWriteを有効にして測定した」「TurboWriteは特定のデータ転送サイズの範囲内でのみ動作する」とは書くものの、その範囲の大きさもキャッシュ後の速度も数値では示していません。公表がない製品を検討する場合は、キャッシュ後の速度は不明として扱い、1回に書く量が大きいならその前提で余裕を見るのが安全です。

出典・確認日

情報確認日:。仕様・操作方法・価格などの確認に使用した出典を掲載しています。適用条件や現在の情報は各リンク先で確認してください。

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